忙しい人のための3行まとめ
- 株価を離散信号とみなすと周波数解析ができる
- ランダムにもいろいろな種類があり「統計的に予測容易なランダム」が存在する
- 株価チャートはフラクタル性が強く示唆され「統計的に予測困難なランダム」である
※本ブログは私の投資結果および研究成果を記録するものであり、特定の投資商品や銘柄を推奨するものではありません。
はじめに
株価を予測できるか、できないか。
この問いは、投資の世界では長年語られてきましたが、多くの場合、議論は「感覚」や「経験則」の話に落ち着いてしまいます。
あるいは、いわゆるファンダメンタルの話題――
業界構造や競争環境、国際情勢、政治・経済の動向といった要素を材料にして株価を説明しよう、という方向に流れがちです。それらは確かに重要な知識ではありますが、議論の中心はいつの間にか「ストーリーとして納得できるかどうか」に置き換わっていきます。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいと思います。もし株価を信号として扱ったら、何が見えるのでしょうか。
株価をフーリエ変換する

横軸=4096営業日を1とした場合の周波数/縦軸=その周波数成分の振幅
まずは説明を読む前に、このグラフを眺めてみてください。これは、過去のある期間の4096営業日分の日経平均株価の終値をフーリエ変換し、その結果を両対数グラフで表示したものです。営業日ベースで4096日分ですので、期間としてはおよそ17年分のデータに相当します。
信号処理や数値解析に明るい人はこれを見ただけで「あ、だめだこりゃ、株は儲からん」と即座に判断してしまうかもしれません。しかしほとんどの人はそうではないと思いますので順番に解説していきます。株価チャートの全てが分かってしまうほど重要な情報がこのグラフには含まれています。
フーリエ変換は時間の世界を周波数の世界に変換する
ここで行っているフーリエ変換とは、株価という時系列データを、周波数成分に分解するためのものです。時間軸で見えなかった構造が、周波数軸に姿を変えて現れます。信号から何かの特徴を見出そうとした場合にフーリエ変換を行うのは信号処理の定石の一つです。
なお、4096というデータ点数を用いている理由については、ここでは詳しく触れません。数学的にはFFT(高速フーリエ変換)を行うには「2のべき乗」にすると都合がよい、という事だけを述べるにとどめます。本記事の主題はFFTそのものではなく、このグラフから何が言えて、何が言えないのかだからです。
フーリエ変換の補足
ここで行っていることは周波数解析の中でも【離散フーリエ変換】と呼ばれるものですので、詳しく知りたい方はwikipediaの解説を参照してください。以下の記事で解説しているように、株価の終値を離散データとみなしたことで離散フーリエ変換が行えるようになりました。
通常の方法でフーリエ変換を行うと、出力は複素数になりますので、上のグラフではその絶対値を取っています。今回は周期性の有無を調査することが目的だったため、株価チャートから周波数のエネルギーのみをグラフ化して位相は無視しています。
両対数グラフとは
この周波数スペクトルは、横軸・縦軸ともに対数スケールで表示されています。いわゆる両対数グラフです。通常の線形グラフでは、軸の目盛りは 1、2、3… と一定の差で増えていきます。この場合、数値が2倍になれば、見た目の距離も2倍になります。
一方、対数グラフでは、1、10、100、1000といったように、どれだけ倍率が変わったかが基準になります。10倍、100倍、1000倍といった増え方が、同じ間隔で表示されます。
このため、値の大小が極端に異なるデータを、同じグラフ上で無理なく扱うことができます。今回のように、周波数やエネルギーが広い範囲に分布するデータでは、両対数表示は「情報を歪めずに一枚に収める」ための、ごく実用的な表示方法です。
ここで重要なのは、両対数グラフを使うこと自体に、特別な意味づけをしていない点です。あくまで見やすくするための表示方法であり、このグラフから何を読み取るかは、次の節で改めて考えます。
ここから読み取れること
まず明確なのは、このグラフがテクニカル指標のように売買ポイントを示してくれる図ではないという点です。未来の株価を予測してくれそうな形でもありません。
ここで行っているフーリエ変換は、株価を「予測可能なもの」に変える操作でもありません。単に、株価という信号がどのような周波数成分の重ね合わせで構成されているのかを分解しているだけです。
その上で周波数グラフの形(スペクトル)を眺めると、特定の周波数に明確なピークが立っているわけではないことが分かります。つまり別の言い方をすると、株価は特定の周期をもつ繰り返し運動ではありません。感覚的に納得いただける事実だと思いますが、数学的にもそれが示されたこととなります。
一方で、完全にデタラメなノイズのように平坦でもありません。周波数が高くなるにつれて、全体としてエネルギーが減衰していく傾向が見て取れます。
ここで重要なのは、「ランダムか、ランダムでないか」という二択では不十分だという点です。問題になるのは、どのような性質を持つランダム性なのかということになります。
この点を整理するために、次の章では「ランダム」という言葉そのものを、もう少し厳密に分解していきます。
「ランダム」にもいろいろな種類がある
世の中では「ランダム=予測不能」と雑に扱われがちですが、信号処理の世界ではそう単純ではありません。ランダムであることと、何も予測できないことは、必ずしも同義ではありません。
サイコロの目は予測可能
サイコロを一つだけ振ったとき、次にどの目が出るかを正確に予測することはできません。これは直感的にも明らかです。しかし、サイコロを一つではなく、たくさん同時に振ると話は変わってきます。例えば、大量のサイコロを一斉に振り、その出目の平均値を考えてみます。
個々のサイコロの目はバラバラでも、十分な個数があれば、平均値はほぼ一定の値に収束します。この場合、その値は3.5です。重要なのは、ここで予測しているのが「次にどの目が出るか」ではない、という点です。個々の結果は予測不能でも、集団としての振る舞いや統計的な性質は、十分な精度で予測できます。

このように、「ランダムであること」と「何も予測できないこと」は同義ではありません。予測できる対象が、個別の事象なのか、それとも平均や分布といった統計量なのか、によって話は大きく変わります。
ホワイトノイズは予測可能

横軸=営業日/縦軸=株価
上のグラフを見てください。これは、値が 5000から10000の間で一様にランダムに生成されたホワイトノイズです。時間方向に並べると、まるで意味のない上下動を繰り返しているように見えます。
もし株価がこのような動きをしていたとしたら、どうでしょうか。次にいくらになるかを予想することは不可能です。5000になるかもしれませんし、10000になるかもしれません。したがって明日の株価を当てることは、完全に運任せになります。では、このような銘柄から利益を出すことは不可能なのでしょうか?
実は、そうとは限りません。このホワイトノイズには一つ重要な情報があります。それは
「5000から10000の間で、確率的に等分されている」
という点です。つまり、確率分布が既知であり、平均値が7500であることが分かっています。
この前提が分かっていれば、例えば7000より下なら買い、8000より上なら売るという単純なルールを繰り返すだけで、統計的には利益が出る構造を作ることができます。
ここで重要なのは、個々の価格変動を予測しているわけではないという点です。次の値がいくらになるかは、最後まで分かりません。それでも、分布や平均といった統計的な性質が分かっていれば、そこから戦略を立て、結果として利益を得ることは可能です。
この意味で、ホワイトノイズは
「値そのものは予測不能だが、統計的な振る舞いは予測可能」
という、非常に重要な性質を持っています。
株価の分布は予測可能か?
確率分布が分かればその振る舞いが予測ができる、という事実は、この分布が将来にわたって絶対に変化しないことが前提となります。上に書いた「確率分布が既知」とはそういう意味です。実際の株価において過去の確率分布は容易に求められますが、将来の分布が明らかになることと等価でしょうか?
私が17年分にも及ぶ長期の株価をフーリエ変換したのも、それを明らかにすることが目的でした。少なくとも安易なホワイトノイズでは無さそうだということはわかります。次にホワイトノイズではない別のノイズの例を挙げます。
フラクタルノイズは予測困難

横軸=営業日/縦軸=株価
上のグラフを見てください。これは一見すると、株価チャートのようにも見えるかもしれません。フラクタルノイズの一例として知られているランダムウォークと呼ばれるものです。
これは
「一つ前の値に対して、次の値が増えるか減るかが完全にランダム」
というルールを、ひたすら繰り返して生成した時系列です。まるで株価チャートのように見えるのはそのためです。株価も明日上がるか下がるかは誰にも分かりません。そんな状況と似ています。
フラクタルとは
ここで、フラクタルという言葉について簡単に説明しておきます。あまり馴染みのある用語ではありませんので、まず「どういうものか」を押さえてから話を進めます。
フラクタルとは、スケールを変えて眺めても、似たような構造が現れ続ける信号あるいは現象です。細かく見ても粗く見ても、同じような「揺らぎ」を持ち続ける、という性質を持っています。自然界にも多く見られる構造で、海岸線の様子や植物の構造にもフラクタルが現れることが知られています。
ランダムウォークの特性
ランダムに上下を繰り返すランダムウォークも確かに「ランダム」の一種です。しかしここで重要なのは、ランダムウォークはフラクタルノイズであり、ホワイトノイズとは決定的に性質が異なるという点です。
ホワイトノイズでは、平均や分散、確率分布といった統計的な情報が、はっきりと定義できます。
一方で、フラクタルノイズではそのような統計量が測定期間によって常に揺らいでしまいます。
なぜ定義できないのか、という点に踏み込むと、自己相似性やスケーリング則といった、かなり重たい数学の話になってしまいますので、ここでは詳しい説明は省きます。ただし、統計情報が定義できないという点が、この種類のランダム性において決定的に重要であることだけは覚えておいてください。
個々の値はもちろん、平均や分散といった「集団としての性質」すら安定しない。これがフラクタルノイズが持つ最大の特徴です。
株価はフラクタル

ここでもう一度株価チャートをフーリエ変換したグラフをお見せします。このグラフは周波数とそのエネルギーが1/fで反比例しているように観測できます。これは株価がフラクタルであることを強く示唆しています。株価がフラクタルであると厳密に証明するには無限の期間が必要になりますので不可能ですが、投資家が行う売買もまた寿命という有限期間が存在しますので、実質的に株価はフラクタルである、と考えて投資を行うことに妥当性があります。
長期データの意味
17年分というのはなかなか説得力のあるデータ量だと思っています。ネット検索すると1年あるいは1か月程度の短期間で周波数解析を行い「7日ごとの周期がありそう(かも?)」というような誤った研究が散見されます。しかしこれはフラクタルの一部を切り取っただけの結果にすぎません。フラクタルノイズでも短期の一部を切り取れば、フーリエ変換することで偽の周期信号の特性が現れ始め、何らかの特徴が得られてしまいます。
そのような誤解を防ぐために用意したのが長期のデータです。このデータがフラクタル性を示したということは、1年などの短期のチャートを見たときに現れる見かけ上の周期性は偶然であり、翌年にその特徴が再び現れることは無い、という冷酷な事実です。
次回予告
長くなったのでここで中断します。次回は中編として、周波数の世界で見たときのレンジとトレンドについて考えていきます。株価チャートからレンジとトレンドは判断できるのかを明らかにしていきます。
※本ブログは私の投資結果および研究成果を記録するものであり、特定の投資商品や銘柄を推奨するものではありません。



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