【研究ノート】信号処理屋が株価を周波数解析してみた(中編:レンジもトレンドも幻覚だ)

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忙しい人のための3行まとめ

  • レンジ相場/トレンド相場とは株価チャートが持つ周波数のことである
  • レンジもトレンドも相対的な周波数の違いを人間の感覚でとらえたもの
  • 超長期に株価を分析すると数学的に明確なレンジやトレンドは存在しなかった

※本ブログは私の投資結果および研究成果を記録するものであり、特定の投資商品や銘柄を推奨するものではありません。

はじめに

前編では株価を周波数解析して周波数ピークを持たない1/f揺らぎを持つフラクタルとして扱える事を示しました。

次は中編として、多くの投資家が信じているレンジ相場やトレンド相場といった概念について、考察を進めていこうと思います。

これらはチャートを時間軸で眺めたときに「横ばいに見える」「上がり続けているように見える」といった印象から名付けられたものです。それらは統計的に見て、あるいは周波数の観点から見て、どのような性質を持っているのでしょうか。ここからは、レンジやトレンドという言葉を一度脇に置き、株価を離散信号として扱ったときに、それらがどのように見えるのかを考えていきます。

レンジ相場orトレンド相場が分かれば大金持ち

レンジ相場からトレンド相場に移った――

このような言い方をする投資家やアナリストがいますが、なぜレンジ相場かトレンド相場かを人々は気にするのでしょうか?それはこの2つの相場では売買のルールが正反対になり、相場を正しく判断できれば儲けられる、と信じられているからです。

例えば前回のホワイトノイズの例を挙げて、容易に儲けられると言ったのは、ホワイトノイズがいわゆるレンジ相場だからです。確率分布が一様なので、中央より下であれば平均的に見ると必ず株価は上がりますし、その逆もしかりです。つまりホワイトノイズの様なレンジ相場の理想モデルならば逆張りが有効で、下がったら買い、上がったら売る、を繰り返すだけで勝てます。

7000円以下で買い8000円以上で売るだけで勝てるホワイトノイズ相場

仮にホワイトノイズ的な性質が未来永劫継続するならば、株価はレンジ相場であり「株式投資は逆張り投資で長期的には確実に勝てる」と言い切れることを意味します。同様に、トレンド相場が未来永劫続く市場ならば、値上がりしている銘柄を買い、値下がりしている銘柄を空売りするだけで、あとは放っておけば大金持ちです。仮にこの2つの性質が多少混ざっていたとしても、レンジが強ければ逆張りのほうが勝率が高くなり、トレンドが強ければ順張りのほうが勝率が高くなります。適切に損切りラインを設定すれば平均的には勝てます。

重要なのは相場が過去どうだったかではなく未来にどうなるか?です。言い換えると株式市場は本質的にはレンジ相場とトレンド相場とどちらの性質が強いのかを知りたい、知ることができればそれに合致した投資法(逆張りor順張り)を続けていれば容易に儲けられる、ということです。

レンジ相場/トレンド相場の周波数特性

まず前提として、株価は売買のたびに変わります。上がるか下がるかを繰り返しながら値が変化します。終値基準で見ると偶然前日と同じ値になる場合ももちろんありますが、これはサンプリング周期の都合であり、株価チャートは時間と株価の関係をプロットしたデータ列とみなせます。

この前提に立つと、レンジ相場やトレンド相場といった分類は株価を時間軸で眺めたときのグラフの見た目の印象として語られることが多い、ということが分かります。横ばいに見えればレンジ、一定方向に動いているように見えればトレンド、という具合です。

しかし、株価を離散信号として扱いこれを周波数方向に分解して眺めてみると、話はもう少し厳密になります。時間軸での「見え方」は主観的ですが、周波数軸ではどの周波数成分がどの程度含まれているかを統計的に整理することができます。

ここからは、レンジやトレンドという言葉を感覚的なラベルとしてではなく、周波数特性として捉え直すことを試みます。

レンジ相場は高周波が強い相場

一般にレンジ相場とは、株価が一定の価格帯の中で上がったり下がったりを繰り返している状態を指すことが多いです。大きな方向感はなく、上下動を行き来している、という印象で語られます。

これを周波数の観点から捉え直してみます。
レンジ相場とは
「特定の高い周波数成分が相対的に強い状態」

と言い換えることができます。

周波数が高いというのは、短い時間の間に信号が何度も上がったり下がったりしている、ということです。つまり、価格変動の「往復運動」が細かく繰り返されている状態です。

このような信号をあとから時間軸方向で眺めると、誰が見ても「レンジで動いているように見える」形になります。レンジ相場とは時間軸上で観測された高周波成分の見え方に過ぎません。

トレンド相場は低周波が強い相場

トレンド相場は、先ほど述べたレンジ相場とはちょうど逆の状態として語られることが多いです。
株価が一方向に大きく動き続けているように見えるとき、人はそれをトレンド相場と呼びます。

これを周波数の観点から見てみるとトレンド相場とは
「低い周波数成分が相対的に強い状態」

と言い換えることができます。

周波数が低いというのは、信号全体の変化がゆっくりで周期が長い、ということです。このような低周波の波形を時間軸の一部分だけ切り取って眺めると、全体としては大きな波の一部しか見えません。

その結果「上がり続けている」「下がり続けている」といった、一方向の動きとして観測されます。トレンド相場とは、低周波成分の一部分を時間軸上で切り出して見ている状態に過ぎません。

トレンド・レンジは相対的である

ここまでの説明で使ってきた「高い周波数」「低い周波数」という言葉は、実は絶対的な基準を持っているわけではありません。あくまで、どの時間スケールを基準に観測するかによって決まる相対的な概念です。

人工的に4つの周波数を重ねて作った波形

この図は一見すると複雑な波形を描いていますが、たった4つの周波数成分しかありません。それでも不規則に上下しているように見えるので、レンジやトレンドについて論じることが出来そうです。

例えば、デイトレーダーのように極めて短い期間で売買を行う投資家は、必然的に高い周波数成分に注目しています。この視点から見ると「1週間かけて下がり、翌週に上がる」といった動きは、十分に周期の長い低周波の変動として観測されます。結果として、それはトレンドのように見えます。彼らは「今日は地合いが良いからトレンドに逆らわないように」などと「順張り」を主張します。そしてこれは一見すると正しいです。

一方で、スイングトレードのように、数週間から数か月のスパンで取引を行う投資家の場合、基準となる周波数はさらに低くなります。この立場では「1週間上がって、1週間下がる」という動きは完全にレンジ相場として扱われます。彼らはこれを見て「市場がどちらを向くのか見極めよ」あるいは「値が下がったところで拾え」などと「逆張り」を主張します。そしてこれも一見すると正しいです。

全く同じ波形を見ているのにもかかわらず、デイトレーダーとスイングトレーダーで全く逆のことを主張しています。そしてその両方とも正しいことを言っているように感じられますし、それぞれのカテゴリにおいて利益を上げている投資家が確かに存在します。

さらに、数年単位で売買を行う投資家にとっては、1週間程度の値動きは、完全にノイズです。この場合、レンジと呼ばれるのは数か月程度の周期の上下動であり、トレンドとは、数年かけて形成される、より低い周波数成分を指すことになります。上で短期や中期のトレーダーが見ていたような一か月以内の株価の動きは観察の対象外です。

このように、同じ価格変動であっても観測する時間スケールが異なれば「高周波だからレンジ」にもなり「低周波だからトレンド」にもなります。

トレンド相場やレンジ相場とは、株価そのものに内在する絶対的な性質ではなく観測者の時間軸によって決まる見え方に過ぎません。

トレンドとレンジを周波数で判断してみる

例えば2025年の11月中旬から12月の大納会までの32営業日の日経平均株価終値のグラフを分析します。32営業日とは一見中途半端ですが、周波数解析を効率化するための数学的な都合ですので株価的に深い意味はありません。

2025年末の株価の動き
横軸=営業日/縦軸=日経平均株価終値

実際、そのような短期間データに対してフーリエ変換を行うと、特定の周波数帯が強調されたスペクトルが得られることは珍しくありません。その結果を後から眺めてみれば「あの期間はレンジだった」「この期間はトレンドだった」と説明することはが可能です。

フーリエ変換したグラフ
横軸=32営業日を1とした場合の周波数/縦軸=株価の振幅

周波数グラフを読み取るには訓練が必要ですが、この図が意味するのは2025年終盤の日経平均株価は4営業日を一周期として上下を繰り返すレンジ相場の性質が強いということです。そのため2日ごとに「下落したら買い、上昇したら売る」という投資判断を繰り返すと儲かる可能性が高いと判定できます。その視点で再度上の日経平均株価終値のグラフを見てください。周波数解析のすごさが分かりますし、こんなことが分析できるならば簡単に株でお金持ちになれそうです。

この実験では32営業日でしたので、データを増やしてもっと長くすれば永遠のレンジ相場、すなわち「株の必勝パターン」が得られるかもしれません。過去数十年の株価を解析してレンジの周波数を探し出してそれに合わせて売買すれば完璧です。

しかしこのような主張はまさしく統計を使ったダマしのテクニックであり、都合の悪いことを全て隠しています。この記事で述べた「統計最適ゴールデンクロス/デッドクロスファンド」の話を思い出してください。

トレンドもレンジも幻覚だ

17年分の日経平均株価終値の周波数スペクトル(両対数表示)
横軸=4096営業日を1とした場合の周波数/縦軸=その周波数成分の振幅

ここで、前編でも示した約17年分(4096営業日)の日経平均株価をフーリエ変換した結果をもう一度掲載します。株価は時間軸では細かく上下動を繰り返しているように見えますが、周波数軸で眺めると、低い周波数から高い周波数にかけて、特定の特徴は見当たりません

スペクトルは、ほぼ一直線上に並び、右肩下がりの形をしています。この「右斜め下45度に近い直線」という形状は、信号がフラクタル的な性質を持っていることを示しています。

局所的にはトレンドやレンジが現れることもある

ここで一つ、補足しておきたい点があります。先ほど示した結論は、約17年分(4096営業日)という長期データを用いた場合の話です。このデータ量には実は大きな意味があります。株価が仮にフラクタルであると仮定するなら、扱うデータが長期になればなるほど周波数特性は平均化され、特定の周波数成分だけが際立つことは起こりにくくなります。そして実際に特定の周波数は消えてしまいました

一方で、もし分析対象を例えば1年分、あるいはさらに短く特定の一か月分に限定した場合はどうでしょうか。このようにデータ長が短くなると、平均化が十分に効かなくなり特定の周波数成分だけが「ぴょこんと」飛び出して見えることがあります。

前項で周波数解析を行うことでレンジとなる周期を容易に判定することができました。しかし重要なことは、それがあくまで短期間かつ事後的に言えているだけだという点です。長期に均すと特定の周波数ピークが消えるということは、事前の予測は不可能です。つまりこの「2日ごとに判断すれば儲かる」というのは2か月前の過去のデータを分析したから言えるのであって、来年の相場がそうなることは全く分かりません。

周波数の特徴が無い

重要なのは、ここに特定の周波数帯が強調されていないという点です。つまり「ここがレンジ相場の周波数帯だ」「ここがトレンド相場の周波数帯だ」と呼べるような領域がどこにも存在しません。

過去2か月前を取り出した株価の分析がそうだったように、局所的にはトレンドに見える期間もレンジに見える期間も存在します。しかしそれらは長期的な視点に立つと一つのフラクタル的な信号の一部分に過ぎません。

特徴となる周波数帯が存在しない、ということは、統計的・周波数的に見て、レンジ相場の特徴もトレンド相場の特徴もこの17年分の株価データには含まれていないということを意味します。

株価そのものが本質的にトレンド型であるとか、あるいはレンジ型であるとか、そういった性質を内在的に持っているわけではない。この点は、データ長を大きく取ったときに初めてはっきりと見えてきます。

レンジやトレンドの正体

時間軸で見たときに「ここはレンジだ」「ここからトレンドが始まった」と感じるのは、人間の視覚や認知が作り出した解釈に過ぎません

周波数の世界では、レンジもトレンドも同一の信号の見え方が違うだけです。分類しているのは株価ではなく、それを見ている人間の側なのです。

明確に株価が上昇トレンドを持っているように見えたとしても、それは「投資家の取引間隔にとって相対的に周波数が低い波」の位相が揃ったことで、低周波が見かけ上、強調されて知覚されるだけです。その反対に「誰がどう見てもレンジ相場」であったとしても、それは「投資家の取引間隔において相対的に周波数が低い波」の位相がずれて打ち消しあい、高周波が見かけ上、強調されて知覚されただけにすぎません。

時間軸の世界では「上昇/下降」と見え、そこで売買すると現実にお金が得られてしまうため、そこに何かがあるように人間は感じてしまいますが、株価チャートを信号とみなして周波数の世界に置き換えると、そこには何もないことが明らかになります。

次回予告

長くなったのでここで中断します。次回は後編として、フラクタルである株価チャートに対してテクニカル指標を適用する意味を考えていきます。テクニカル指標が未来の予測の役に立たないばかりか、過去の分析すら機能しないことを明らかにしていきます。

※本ブログは私の投資結果および研究成果を記録するものであり、特定の投資商品や銘柄を推奨するものではありません。

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